夕方になると、窓や鏡に映った自分の顔が光っている。鼻や額がテカって見える。朝きちんと洗ったのに、昼を過ぎるとまた脂っぽくなる。
調べてみると「男性は皮脂が多い」「洗いすぎではないか」「乾燥しているからではないか」という説明が並びます。どれも当てはまる気がして、どれも決め手になりません。
男性は本当に女性より皮脂が多いのか。年齢で変わるのか。洗いすぎや乾燥は関係するのか。研究で分かっていることを、順に見ていきます。
男性は本当に皮脂が多いのか
中国で713名を調べた研究があります。男性328名と女性385名、0歳半から94歳までを5つの年齢層に分け、額と前腕で皮脂の量や角層の水分量を測ったものです。この研究では、額の皮脂量は13歳から70歳の範囲で、男性のほうが同年齢の女性より高かったと報告されています。
ドイツで20歳から74歳までの300名を測った研究でも、男性の皮脂量は一貫して女性より高く、年齢が上がっても安定していました。女性のほうは年齢とともに少しずつ下がっています。
ただし、皮膚の表面から何を採って測るかで結果は変わります。315名を対象に、皮膚の表面に残っている成分を採取して重さと成分を分析した研究では、その量に性別の差は出ませんでした。民族による差も、年齢との相関もありません。この研究が採っていたのは皮脂だけではなく、汗や表皮の脂質を含む混ざりもので、皮脂そのものを測った研究とは対象が違います。
性ホルモンと皮脂の関係を調べた研究としては、性別移行のためのホルモン療法を受けた38名を12か月追跡したものがあります。エストロゲンと抗アンドロゲンを投与すると皮脂の産生が下がり、テストステロンを投与すると上がりました。ただし対象が限られた集団なので、そのまま一般の男性に当てはめることはできません。
ここまでをまとめると、皮脂の量そのものを測った研究では、男性のほうが高いという報告が複数あります。ただしこれは「皮脂の量」の話で、見た目のテカリを測った結果ではありません。その違いはあとで触れます。
額や鼻など、部位によって違うのか
93名を14か所で測った研究は、部位によって差があったと報告しています。先の713名の研究でも、額と前腕で値が違っていました。
ただし、どの部位がどのくらい多いのかという順位までは読み取れません。おでこや鼻がとくにテカるという実感はよく聞きますが、額・鼻・頬のどれが皮脂が多いかを並べて示した研究は、調べたかぎり見当たりませんでした。
はっきりしているのは「部位によって違いはある」というところまでです。
年齢で皮脂の量はどう変わるのか
ここは研究によって結果が分かれます。
14か所で測った研究では、皮膚の表面にたまっている皮脂の量が、年齢とともに有意に下がったと報告されています。一方、300名を測った研究では、男性は年齢が上がっても安定していました。皮膚の表面に残る成分を測った315名の研究では、年齢との相関は出ていません。
つまり、「40代になると皮脂が増える」とも「減る」とも、一方向に言えるだけの材料はありません。年齢だけで決まる話ではなさそうだ、というのが現時点で言えるところです。
「顔がテカる」と「皮脂が多い」は同じことなのか
ここまで見てきたのは、機器で測った「皮脂の量」です。一方、鏡を見て「テカっている」と感じるのは、光の反射のしかたです。この2つは、別々の研究で測られています。
見た目の光沢を調べた研究としては、日本人女性283名の顔画像を、鏡のように反射する成分と内側で散って返ってくる成分に分けて分析したものがあります。59名が頬の画像を見て、「好ましい光沢」と「好ましくない光沢」をスコア付けしました。「好ましくない光沢」に関わっていたのは、反射のムラ、明るさ、そして赤みの強さでした。
この研究は化粧品会社の研究者が中心になって行ったもので、対象は女性のみ、見たのは頬だけです。そして皮脂の量は測っていません。
つまり、皮脂の量を測った研究と、光沢の見え方を測った研究は、それぞれ別に存在しています。両方を同時に測って関係を確かめた研究は、調べたかぎり見当たりませんでした。テカリと皮脂が無関係ということではなく、関係の強さを数字で語れる材料がまだない、ということです。
皮脂を取り除いたあと、どのくらいで戻るのか
実験として皮脂を落としたあと、どう戻るかを測った研究が2件あります。
1件は、額・頬・鼻・顎・背中の上部から皮脂を落として3時間追跡したものです。額・顎・鼻は、洗浄とアルコール拭きを繰り返しても十分には落ちませんでした。頬と背中の上部は、石けんで洗うだけで足りたとしています。
もう1件は、18名の額を70%のエタノールで脱脂し、1時間後から7時間後まで皮膚表面の脂質を調べたものです。戻り方の速さは全員が同じパターンに従い、その人がもともと皮脂を多く出すかどうかには左右されませんでした。
ただし、どちらもアルコールなどで強く脱脂した条件での測定です。前者は製薬会社、後者は化粧品会社の研究者によるものです。ふだんの洗顔のあとに何が起きるかを再現したものではないので、「洗顔後○時間でテカりはじめる」「朝洗えば夕方はこうなる」という目安として読むことはできません。
洗いすぎや乾燥で、皮脂は増えるのか
よく見かける説明です。洗いすぎると肌が足りない分を補おうとして皮脂を出す、乾燥しているから皮脂が増える、と。
ただ、洗顔の回数や洗いすぎが皮脂の量を増やすことを確かめた研究は、調べたかぎり見当たりませんでした。角層の水分量が下がることが皮脂の量を増やす、という関係を測った研究も同じです。化粧水でテカリが抑えられるかを調べた研究も見つかりません。
これは「洗いすぎは関係ない」という意味ではありません。よく言われている割に、その関係を実際に測って確かめた研究が見当たらない、というのが実際のところです。洗う回数を増やすべきか減らすべきかを、研究を根拠に決められる段階ではありません。
「インナードライ」はどう考えればいいのか
顔はテカるのに肌はつっぱる、という状態を「インナードライ」と呼ぶ説明をよく見かけます。
ただ、この言葉がどういう状態を指すのか、定義を示した一次的な資料は見当たりませんでした。定義がはっきりしないまま「自分はインナードライだから」という前提で何かを決めるのは、足場が弱いということになります。
テカリと乾燥感が同時にあるという実感を否定するものではありません。ただ、それを一つの肌質として扱えるだけの裏づけは、今のところ見つかりません。
脂性肌かどうかは、見た目で分かるのか
ここまで出てきた研究は、いずれも機器で測るか、決められた手順で評価するかのどちらかです。皮脂の量はSebumeterやSebutapeといった測定器で、皮膚の表面に残る成分は採取したうえでの重量測定と成分分析で、光沢は画像を分解する処理と観察者のスコア付けで測られています。
鏡を見て自分が脂性肌かどうかを判定する方法については、それが確かめられたという報告は見当たりませんでした。テカって見えるという実感は実感として確かですが、それが「皮脂が多い肌質」であることの証明にはなりません。
まとめ
分かっていることを整理します。皮脂の量そのものを測った研究では、男性のほうが高いという報告が複数あり、ここは結果がそろっています。部位による違いも報告されています。
一方で、年齢との関係は一方向には整理できません。洗いすぎ・乾燥・「インナードライ」とテカリを結びつけて確かめた研究も、皮脂の量と見た目のテカリを同時に測った研究も、調べたかぎりでは見当たりませんでした。
ですから、自分の顔がテカる理由を一つに特定することは、いまの研究からはできません。受け取れるのは「男性のほうが皮脂の量は多いという報告が複数ある」というところまでで、そこから先の「洗いすぎのせいだ」「乾燥のせいだ」という説明は、まだ確かめられていない話として聞いておくのが無理のないところです。
なお、ここで紹介した研究は、日本人の40代男性だけを対象にしたものではありません。中国やヨーロッパで行われたものが中心で、女性を対象にした研究も含みます。数字をそのまま自分に重ねられるわけではない、という点は押さえておいてください。
肌の状態全体をどう切り分けて考えるかは40代男性の肌は何から整える?に、皮脂と毛穴の関係は40代男性の毛穴が目立つのはなぜ?にまとめています。
参考にした研究
このページは、次の8件の研究をもとにしています。いずれも査読を経た論文です。著者に企業の所属者が含まれるものは、その旨を添えました。
Man MQ, Xin SJ, Song SP, Cho SY, Zhang XJ, Tu CX, Feingold KR, Elias PM. Variation of skin surface pH, sebum content and stratum corneum hydration with age and gender in a large Chinese population. Skin Pharmacol Physiol. 2009;22(4):190-199.(中国713名/カリフォルニア大学サンフランシスコ校ほか)
Conti A, Schiavi ME, Seidenari S. Capacitance, transepidermal water loss and causal level of sebum in healthy subjects in relation to site, sex and age. Int J Cosmet Sci. 1995;17(2):77-85.(93名・14部位/モデナ大学)
Luebberding S, Krueger N, Kerscher M. Skin physiology in men and women: in vivo evaluation of 300 people including TEWL, SC hydration, sebum content and skin surface pH. Int J Cosmet Sci. 2013;35(5):477-483.(300名・20〜74歳/ハンブルク大学)
Shetage SS, Traynor MJ, Brown MB, Raji M, Graham-Kalio D, Chilcott RP. Effect of ethnicity, gender and age on the amount and composition of residual skin surface components derived from sebum, sweat and epidermal lipids. Skin Res Technol. 2014;20(1):97-107.(315名/ハートフォードシャー大学/測定対象は皮脂・汗・表皮脂質の混合物)
Giltay EJ, Gooren LJ. Effects of sex steroid deprivation/administration on hair growth and skin sebum production in transsexual males and females. J Clin Endocrinol Metab. 2000;85(8):2913-2921.(38名/アムステルダム自由大学病院)
Kikuchi K, Shibata T, Katsuyama M, Hardeberg JY, Yuasa T, Aizu Y. Development of an evaluation method for skin gloss: key skin color and optical properties for separation of preferred and unpreferred glossiness, and age-related changes to gloss level in Japanese women. J Opt Soc Am A. 2025;42(4):449-465.(日本人女性283名・頬/著者に株式会社資生堂みらい開発研究所の所属者を含む/皮脂量は測定していない)
Rode B, Ivens U, Serup J. Degreasing method for the seborrheic areas with respect to regaining sebum excretion rate to casual level. Skin Res Technol. 2000;6(2):92-97.(各群12名/著者にLeo Pharmaceutical Productsの所属者を含む)
Saint-Leger D, Cohen E. Practical study of qualitative and quantitative sebum excretion on the human forehead. Br J Dermatol. 1985;113(5):551-557.(18名/著者にロレアル基礎研究所の所属者を含む)